在宅介護および在宅生活を支援する中小サービス業の
発展可能性に関する調査研究」報告書 要約版
〜 「与えられる福祉」から「選ぶ福祉」へ 〜
平成8年度中小企業庁委託調査
本格的高齢社会の到来を目前に控え、公的財源の逼迫や世帯構造の変化等によって、公的介護保険制度の導入が検討されるなど、旧来からのサービス供給体制とは異なった多様なサービス供給体制の確立が急務となっている。
そこで、在宅福祉分野のサービス供給主体の一翼として期待される民間事業者の現状、特に、サービス展開にあたり直面している問題点と課題を整理、検討するとともに、消費者の民間事業者に対する認知と今後の利用意向の把握を通して、民間事業者の発展可能性を探ることを目的として、以下の8業種を対象に調査を行なった。
1.在宅(訪問)介護・ホームヘルプサービス
2.訪問(出張)入浴サービス
3.配食・食材宅配サービス
4.福祉用具のレンタル・販売
5.在宅医療・在宅福祉関連情報提供・相談サービス
6.訪問(出張)理美容サービス
7.外出援助(移送)サービス
8.高齢者居宅のハウスクリーニング
[在宅福祉サービス市場の動向]
- 行政サービスとして実施されている福祉サービス供給量は、平成元年の高齢者保健福祉計画策定以降、厚生省予算ベースで「ホームヘルプサービス」、「ショートステイサービス」、「デイサービス」、「日常用具給付等」のいずれの事業でも予算規模が著しく増大。
- 市町村を実施主体としたサービス供給は、一部事業において厚生省ガイドラインを満たす民間事業者への委託を認めており、「在宅介護・ホームヘルプサービス」を実施する自治体の83.4%が外部委託を実施(平成7年度)。ただし、具体的な委託先(複数回答)の9割は社会福祉協議会であり、特別養護老人ホーム等を経営する社会福祉法人や民間事業者などへの委託は1〜2割程度。
- しかし、実働するホームヘルパーの所属先をみると、民間事業者が41.2%と最も多く、社会福祉協議会が35.2%、市区町村が設置するホームヘルパーは14.8%等となっている。
- 「平成5年 健康・福祉関連サービス産業統計調査」によって捉えることができる民間のサービス事業者(社会福祉協議会は除く)の事業所数は、平成2年から5年までの3年間に100.0%、従業者数は24.7%の増加率を示している。
- このほか、「在宅介護・在宅生活支援サービス」の供給主体は、「社会福祉協議会」や「農協・生協」、「住民参加型団体」など組織が多様化しており、各々が提供するサービス内容は必ずしも一律ではないが、サービスメニューも多様化している。
[個人ニーズの動向]
《サービス利用状況、外部サービスの利用について》
- 「平成6年 健康・福祉関連サービス需要実態調査」によると、すべての「在宅医療・福祉関連サービス」についてその利用が増加しており、特に、通所型の「デイサービス」と「ショートステイサービス」の利用が急増している。
- 「家計調査年報」によると、高齢世帯の日常生活支援サービス消費は他世代世帯よりも多く、特に、「家屋の修理などの工事サービス」、「理美容サービス」、「タクシー」、「バス」などの利用が多い。
- 「高齢者介護に関する世論調査(H8.2)」によると、寝たきりや痴呆症となった場合、自分自身は家族に迷惑をかけないよう施設入所を考えるが、両親や配偶者については自宅で介護を受けさせたいとの考えが強い。
- 自宅で介護される場合、「家族だけの介護」から「家族を中心とし、外部の者も利用」あるいは「外部の者を中心に家族介護」を望ましい介護形態とする傾向があり、「家族以外の介護」に対しては対価の支払が意識されている。
《民間サービスの利用意向》
- 本調査で実施した個人アンケート調査によると、自分自身が加齢や不慮の事故などにより、それまで特別な努力を必要としなかった外出や買い物、料理、選択、掃除などの日常生活に不自由や不便を感じるようになった場合(ADL-1状態)、自身の日常生活に対する手助け等について、22.0%の者が「在宅で、その生活を支援するサービス」の利用意向を示している。
- また、自身の身体機能が変化(低下)し、誰かの介護や手助けなしには食事や着替え、入浴、トイレなど生活の基礎的な活動ができなくなった場合(ADL-2状態)、自身の介護や手助け等について、21.3%の者が「在宅介護型および在宅生活支援型サービスを利用して、自宅で生活したい」とのサービス利用意向を示している。
- ADL-1段階でサービス利用意向を示している者のうち、6割がADL-2段階でもサービスの利用意向をもつ。
- 利用したいサービスは、ADLの状態に応じてサービス内容を選択する傾向があり、ADL-1段階でのサービス利用意向が高い。
- サービス利用に対する1ヵ月あたりの支払可能な最大費用は、ADL-1段階、ADL-2段階ともに「2万円以上3万円未満」と「3万円以上5万円未満」の回答割合を合わせてほぼ半数を占める。平均支払可能額はADL-1が3.0万円、ADL-2が3.3万円。
《民間事業者の認知》
- 3人に1人以上が民間サービスを漠然と認知しているが、利用できる事業者への具体的なアクセス方法などは知られていない。
- アクセス方法等を知らなくとも、役所の実施するサービスが民間事業者に委託されていることはかなり知られている。
- 逆に、民間事業者が行政の委託を受けて実施する場合には、公的サービスと認識されることが多い。
- 民間事業者によるサービス実施に対する抵抗感は薄らいでいるが、価格面での不安感(割高感)が強い。
- サービスの利用希望者では、認知度が高い反面、サービス利用に対する不安が強い。
- また、サービスに限らず、何らかの利用経験を持つ者ほど、初心者よりも不安感がなくなるのが一般的だが、本サービスについてはサービス利用経験者(公的サービス及び民間サービス)の不安感が強い。
[事業展開に影響する要因]
《参入に影響する要因》
- 在宅福祉サービスのうち「在宅介護・ホームヘルプサービス」、「訪問(出張)入浴サービス」、「福祉用具のレンタル・販売」、「配食サービス」に対しては厚生省サービスガイドラインが設定されている。
- 民間事業者の自主規制による「シルバーマーク制度」が実質的にガイドラインを満たすものとして、自治体委託の際の判断基準となる。
- 同制度によって民間事業者への委託が進み、自治体委託により経営基盤の安定化する反面、自治体からの委託実績が既得権化して、後発事業者に不利に働く傾向がある。
- 厚生省ガイドラインは民間事業者等に適用されるが、自治体の委託では適用外である社会福祉法人等が却って優先される傾向がある。
- 一部地域で、「緊急通報サービス」の実施事業者は、地域に出動拠点を持つ警備事業者に限定される。
- 「福祉用具のレンタル」は初期投資が大きいため、中小事業者の参入が困難。
《営業に影響する要因》
- 自治体の措置委託契約では、サービス提供範囲(内容)が限定され総合的サービス提供はできない。
- 自治体委託による「福祉用具のレンタル・給付」における商品選択の幅が広がっているケースは稀であり、限られた範囲内で商品を奨めざるを得ない。
- 「在宅介護・ホームヘルプサービス」および「訪問(出張)入浴サービス」実施については、15日おきに煩雑な駐停車両の申請手続きが必要である。
- 「訪問(出張)理美容サービス」の対象者は、理美容法によって限定される。
《収益確保の困難性》
- 労働集約型サービスであり、収益性は高くない。
- 行政サービスとして実施されてきた経緯から、サービス内容、サービス要員の能力の如何によらず、サービス単価が一定である。
- 特に、「在宅介護・ホームヘルプサービス」は時間当たりの単価設定であるため、民間事業者にとって効率追求の余地が少ない。
- 自治体委託が社会福祉法人等との併用である場合、条件の悪いエリアや時間帯は、民間事業者に偏りがちである。
- サービスの付加価値を高めている健康診断や相談サービス等が価格に反映されにくい。
- 「訪問(出張)入浴サービス」の要員派遣後のキャンセル料が体系化されておらず、実働コストを回収できない。
- 福祉用具のレンタルは、利用者側の抵抗感もあって販売よりも売上実績が低い。メーカーが、レンタルによるコスト回収を困難とする側面もある。
《人材確保・品質管理の問題点》
- 養成機関の充実した都道府県では要員を採用しやすい反面、人材確保が困難な地域もあり、格差が拡大。
- 資格者を採用した場合でも、実質的な研修、育成はOJT対応が多い。
- 厚生省ガイドラインに達するための研修機会が不足しており、特に地方での研修機会が少なく、研修対象には後発事業者が優先される傾向。
- 入札制度は価格優先であるため、サービス内容の質の低下が懸念される。
- 「在宅介護・ホームヘルプサービス」の請負契約は煩雑なシステムだが、サービス内容を相互確認できるメリットがあるのに対し、紹介業、派遣業によるサービス契約は事業者がサービス内容に責任を持てず、そのあり方に議論の余地がある。
- 福祉用具の流通機能が未発達で、製品および製品情報が利用者や中間ユーザーに行き渡っていない。
- 必要以上に利用者(同家族)と親密化することによる弊害もあり、要員配置の工夫や自主基準の作成で対応する事業者もみられる。
[事業者に対する提言と行政に対する要望]
(1)公・民および「共域(社会福祉協議会・ボランティアなど)」の役割分担
各供給主体が役割分担をしながら、利用者のサービス利用意向、選択の余地などを反映させたサービスをそれぞれに作り変えていくような柔軟な対応が期待されており、すでに、配食サービスでは、民間事業者と非営利住民参加型組織(有償ボランティア)とが連携、役割を分担し、サービス提供に当たっているケースが見受けられる。
連携、役割分担のあり方は、それぞれの特性を認識した上で「共同できる領域」や「共同することでサービスが充実する領域」を見極める必要があり、相互の理解と開かれたパートナーシップとが求められる。
(2)市場対応の方向性
民間事業者にとっての市場拡大の方向には、以下のものがある。
?自治体の外部委託化への対応
?公的介護保険制度導入への対応
?個人利用(全額個人負担)の増大への対応
?「在宅生活支援サービス」ニーズへの対応
(3)今後の対応と課題
《事業者および業界団体の対応と課題》
A.認知度向上のための方策
?自治体広報の活用、自治体広報(紙・誌)によるサービスの周知
?電話帳への「居宅(在宅個人)サービス」部門の統合、開設
?サービスガイドラインの必要性
?その他の広報活動
・教育現場における介護サービスの体験学習
・行政や事業者による消費者教育の場
・サービスの体験利用の場
・福祉用具利用普及のための各種補助、助成事業を実施する団体等による広報活動の徹底
B.品質および信頼性向上の課題
?サービスの専門性の確立と相談・コミュニケーションの重視
?人材育成・研修機会の拡充
?クレーム処理体制の確立
?サービスメニューの多様化と事業者間のネットワーク化(横断的地域連絡調整機関の設立)
《行政の対応と課題(要望)》
C.都道府県別サービス供給体制の現状把握と民間事業者育成の必要性
?都道府県別サービス供給量および供給体制の現状把握
?民間事業者育成の必要性
?情報公開の必要性 〜望まれる情報の開示〜
D.競争環境の公平化と望まれる規制緩和
? 自治体委託システムの見直し
・入札制度はサービス価格をほとんど唯一の基準として委託事業者を決定する仕組みであるが、在宅福祉分野のサービスの質を左右するサービス直前の健康診断や日常の細やかな相談サービスのコストはサービス価格には反映されにくい。価格を唯一の基準として委託事業者を決定する従来の入札制度を、こうした質的側面を含めて判定する方法への改善が必要。
・現在の自治体委託は、単一サービスの措置委託契約であるが、利用者が希望するサービスは多様化、複合化する傾向にあり、総合的なサービス供給のできる委託の仕組みを検討することが必要。
・一部地域で体系化されていない訪問(出張)入浴サービスの実施直前に、看護婦が利用者の健康状態を確認した結果のサービスキャンセル料は体系化が必要。
?基準単価の設定方法の見直し
?共通ガイドラインによるサービスの安定供給
?望まれる規制緩和
・「在宅介護・ホームヘルプサービス」と「訪問(出張)入浴サービス」における「駐停車両届け」の手続きの見直し
・「緊急通報サービス」における警備業限定の見直し
・「訪問(出張)理美容サービス」では理美容法による対象者限定の見直し
・自治体委託に関連した事業者登録システムの簡素化など
E.サービスの標準化とサービスの評価システムの確立
?オンブズマン制度の確立
?シルバーマークの見直し
?サービスの標準化とサービスの評価システムの確立
[在宅福祉サービスの市場推計]
《現在の市場推計》
- 将来市場推計の前提として、「在宅介護・在宅生活支援サービス」の14分野について、供給ベース(福祉予算、産業統計等)、需要ベースの両面から1995(平成7)年度の現状規模の数値の比較検討を行なったところ、一部推計困難な「生活支援型サービスを除き、現状(平成7年度)約2,670億円の規模を推計された(デイサービス、ショートステイサービス、移送サービスは除く)。
《将来の市場展望》
- 2000(平成12)年、2010(平成22)年の2時点につき、要介護高齢者人口予測、本調査の外部サービス利用意向、現在のサービス基準単価、標準サービス・モデル、高齢世帯の平均年間支出額(一部の「生活支援型サービス」にのみ適用)などに基づき、14分野について推計を行なったところ、中位推計で2000年9,390億円、2010年1兆6,200億円と推計された(95年価格、デイサービス、ショートステイサービス、移送サービスは除く)。
日本アプライドリサーチ研究所 |