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『中心市街地再活性化』に関する緊急提言

わが国の商業は今、大きな転換点を迎えている。商業統計速報（９７年）によれば、小売業の店舗数は８万店減少し（対９４年比）142万店となり、従業者数は３万人減少で（同）735万人となった。卸売業も、４万店減少し39万店、従業員数で３万人減少の416万人と顕著なマイナスを示している。また、小売業、卸売業の売上高も９７年秋以降前年比減少が止まらなくなっている。

商業活動の低迷は、中心市街地の核となる商店街の景況を悪化させている。わが国の中心市街地の商店街の状態を見てみると、「繁栄している」と考えている商店は、全体のわずか４％にとどまり、停滞ないし衰退しているとの回答が96％（停滞41.8％、衰退54.4％）に達している。とくに、大多数を占める20人未満の経営規模の商店では、「衰退している」との回答が７割弱に達している。（図表−１）また、自分が住んでいるまちの中心部の活気については、全体では、「活気がある」（16％）「どちらかといえば活気がある」（23.5％）と４割を切っているが、小都市では、活気がない（「あまり活気がない」＋「活気がない」）との回答の合計が活気があるとの回答の約２倍（57％）に達している。（図表−２）。また、全国の商店街の８５％に空店舗が混在しており、さらにそれら商店街の３分の１で空店舗比率が１割以上を占めているという（日本商工会議所調査）。

このように、一部活気のある限られた地域を除くと、全国の各都市において中心市街地やその核を成す既存商店街の停滞は、“中心市街地空洞化”と呼ばざるをえないような状況となっている。さらに、中心市街地を形成する商店街の個店では、少数の成長グループと大多数を占める停滞（衰退）グループへの２極分化が進行している。（図表−３）

こうした中で、このほど「中心市街地活性化法」とともに、「大規模小売店舗立地法」「改正都市計画法」の三法が成立した。今後、中心市街地活性化を目指して、通産省、建設省、自治省など１１の省庁が連携した１兆円規模の対策が講じられることとなった。今回の「活性化法」は、従来のいわゆる商店街対策の枠を超え、次のような点で画期的な側面を備えていると評価できよう。
　

ａ．施策の総合性
各省庁縦割りの個別対症療法的な対策ではなく、横断的、総合的な発想で施策が組み立てられていること。

ｂ．幅広い都市型産業の展開
中心市街地が活力を回復するためには、小売業などの振興だけでなく、ファッション、福祉、ソフトウェアなどの幅広い分野の新たな都市型産業の展開と合わせて検討する必要があるとの認識を示したこと。

ｃ．新しい都市計画行政との整合性
従来の新市街地などの整備といった量的拡大から、これ以上の都市のスプロール化を抑止し、既成市街地の社会資本整備の有効活用といった質的充実に整備の重点をシフトさせるという都市計画行政と整合性をもつものであること。
　
ｄ．地方のイニシアティブを尊重
中心市街地の活性化に関する計画と実施が、市町村主体でなされるものであり、分権化の流れを踏まえ、地域のイニシアティブが尊重されたものであること。また、まちづくりの運営の中核として都市経営的視点を持つＴＭＯ（タウンマネージメント機関）が想定されていること。

　
しかしながら、今日の事態は、長期にわたる産業や社会の変化の結果生じてきたものであり、また、中心市街地の危機の構造は、都市規模・地域特性・要因ごとに異なるものである。したがって、まちづくりの主体となる地域住民・事業者・行政等においては、まず、それを明らかにし、当該都市に固有の問題分析に立脚した処方箋づくりを進めなければならない。

�@ 中心市街地での人口減少
地価高騰、住宅地域のシフトによって中心市街地の居住人口が減少したもので、大都市などでその傾向が強い。いわゆるスプロール化、ドーナッツ化現象といわれる。このタイプの中心市街地は、商業集積やオフィス機能がある程度残っているために昼間人口がまだ一定程度集中する地域と、昼間人口そのものの減少が著しい地域に分かれる。
　

�A 地域全体での人口減少
地方中都市以下に多くみられる傾向である。少子化、より活発な隣接他地域への人口流出によ
るもので、特定産業の停滞、都市の産業の中枢を担っていた大手企業や企業群の撤退などによる影響を受けた地方都市などにみられる。

（２）	集客地域シフトによる需要低下

もともと中心市街地が担っていた賑わいや購買機能が、他の都市や新しい集客地域もしくは施設に代替されたり、シフトしたものである。
　
�@幹線交通網の整備にともなう都市間格差の拡大

　モータリゼーションの進展は、消費者の購買都市地選択に大きな変化をもたらした。この影響は、自動車保有率が高く、日常行動において自動車による移動が、主要な移動手段となっている地方中小都市で特に著しく、（図表−４）自動車によるアクセスの良否が消費地選択の大きな要因となっていることをうかがわせる。
　また、幹線交通の整備は、都市間の競争を激化させ、都市間格差を拡大する効果を及ぼす場合がある。たとえば、事例として、上越新幹線、北陸自動車道開通後の長岡市・新潟市の関係があげられる。人口約20万人規模の長岡市の生活必需品以外の嗜好品需要などは、ストロー現象により、より都市規模の大きい新潟市（約50万人）へと流出し、長岡市内の中心市街地は衰退傾向が顕著となっている。こうした都市間競争による成長都市と衰退都市の分化は、幹線交通網の整備にともない多くの地方都市で起こっている現象である。
　

�Aショッピングセンター（ＳＣ）など新商業集積地域の形成

　また、消費者の購買活動範囲が、従来の半径数キロ圏から数十キロ圏へと拡大したのに呼応して、市境・県境を越えて消費を吸引する新しい巨大な商業集積地が、郊外に出現している。これらは、購買機能だけでなく、レストランや娯楽施設など複合機能を兼ね備えたミニ都市とも呼べるものである。
たとえば、盛岡市郊外に計画されているＳＣ（ジャスコ、ダイエー、マイカル）の商業床は、18万�u以上と、盛岡市の既存中小商店４千店の商業床の合計16万�uを大きく上回る規模である。また、茨城県ひたちなか市の郊外にある「ジョイフル本田」は「客が必要なものはすべてある」巨大ＳＣである。一方、既成中心市街地のＪＲ勝田駅周辺では六十三店舗の内十二が空き店舗で「シャッター通り」と呼ばれるほどさびれてしまった。
　
�B大型店の出店による需要シフト

　これは、品揃えが豊富で低価格な大型スーパーやディスカウントストアなどの出店により、既成中心市街地の小さな店舗の需要が減少するパターンで、全国的に見られるものである。（図表−５）これら大型店は中心市街地から離れて立地している場合も多いが、それでも消費のパイが一定である食料品や日用雑貨品など生活必需品の売上げは、中心市街地の商店で減少する、いわば狭域的な需要シフトといえる。
　
�C新しい業態・サービスの出現による需要シフト

　２４時間営業、チケット販売、公共料金支払い端末などを備えたコンビニエンスストアなど新しい業態・サービスの展開も、既存商店街を脅かしている。（図表−６）また、お総菜、ピザ、花などを始めとする宅配サービスが浸透しつつあり、これらは対面注文のわずらわしさがなく、クイックレスポンスなサービスを売り物とするもので、品物が規格化され、品質などを直接目で確かめる必要のない商品分野での優位性が高い。さらに、通信・カタログ販売なども、２０〜４０歳台の女性顧客の主要な購買メディアとして定着しており、今後はインターネットなどを利用した電子ショッピングの台頭も予想され、これらの新業態・サービスは、主に大手・中堅の流通資本によって展開されており、中心市街地の既存商店街に対する強力な競合相手と考えられる。
　

（３）	既存商店街の対応力の不足

以上の諸現象は、都市や産業構造の高度化、ライフスタイルの変化という歴史的な要因を含むものである。しかしこれは裏返して見れば、既存の中心市街地の商店街や個店が、自らを変革していく力が不足しており、取り組みが不十分であったことの結果である、という側面も否定しえない。

　すなわち、�@新たな流通企業が絶えず購買という場面での魅力を高める努力を追求してきたのに対し、既存商店はその努力に欠けていたこと、�A女性の社会進出、単身世帯の増大などの地域住民の生活の変化が進行しているにもかかわらず、営業時間など営業の仕方が硬直的なままであったこと、�B価格・品質・品揃え、あるいはその他の付加価値の面で優位性を持ち得なかったこと、などである。
たとえば、ＳＣ、スーパー、コンビニなどが、絶えず店舗や商品ディスプレーのリニューアルを行い、ショッピングへの興味を刺激するさまざまなソフト面での努力を惜しまないのに比べ、既存の個店や商店街においてその取り組みは見劣りするものとなっている。

　消費者が「街の商業環境に魅力がない」と感じる理由のトップは、店舗の老朽化である。（図表−７）、また、空店舗の増加と放置は、来街者にとって、既存商店街の魅力低下のみならず、まち全体の活力の低下を象徴するものと映る。今日、中心市街地の多くが、商店街の魅力の低下→消費者離れ→商店街の衰退→後継者難・商店の設備投資意欲の減退→商店街の一層の魅力の低下→・・・という悪循環を断ち切れないでいる。
　

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各地域における中心市街地活性化を目指した今後の取り組みは、単なる商業活性化対策を超えて、わが国のいびつで劣悪な都市・住宅環境をダイナミックに変革し、魅力ある都市づくりを通じた内需喚起＝経済活性化プロセスの起爆剤としての機能を担うべきものである。それがなければ、中心市街地活性化策は、これまでの農業や林業対策と同じ道を歩む懸念を拭えない。こうした見地から、以下の諸事項をとくに重視した対応の必要性を、ここに緊急提言するものである。

　

（１）	先進国グレードを目指した都市のリデザインを

中心市街地活性化は、これからの都市づくり−高齢化の進展や、成熟社会にふさわしい都市生活の質向上を視野に入れた新しいまちづくり−の一環として位置づけることが重要である。すなわち、この問題は、単に中心市街地における既存商店の復権を主眼とするわけではなく、当該都市の中心市街地が今後担うべき機能と役割に着目しつつ、先進諸国の中で立ち遅れているわが国の都市のグレードの向上や社会資本の充実というグランドデザイン、リデザインを基本に据えることが必要である。

　英国では、９２〜９７年の期間、３１地区で2,000億円以上をかけて「シティ・チャレンジ」が実施された。これは、疲弊が進行していたインナーシティにおいて、官民が協力して、既存の都市ストックを活かしつつ、新産業の創出・雇用機会の創出、文化・公益施設などの更新、質の高い住宅供給居住環境の改善などを通じて、都市の質向上と活力の回復を図る試みであった。

わが国における中心市街地活性化のための諸投資も、過密と高地価の一方で放置される未利用・低利用地、狭隘な住宅、ミニ開発や乱開発、結果としての無秩序で美しさに欠ける都市空間やアクセサビリティの低さなど、わが国の都市が従来から抱える諸問題を十分に踏まえ、それらの解決に向けたステップと軌を一にするものでなければならない。その意味で、成熟社会にふさわしい高グレードで経済合理性を備えた“非バブル型”の都市再開発の先駆的モデルを提供するものでなければならない。
　
ａ．「バリアフリー型まちづくり」から「都市のユニバーサルデザイン」への転換


　現在各地域で、これまでの効率第一主義で健常者の利用を前提としたまちづくりから、高齢者・障害者等の利用にも配慮したバリアフリー対応のまちづくりが展開されている。バリアフリーとは、「障害を除去する」という事後的・対症療法的なものだが、これからの都市づくりにおいては、当初より都市空間の普遍化（ユニバーサル化）＝さまざまな身体的条件にある住民すべてに自由な活動性を保障することを、目標とすべきである。とりわけ、超高齢社会の到来を目前にしたわが国において、地域の顔ともいえる中心市街地は、そうした取り組みへのシンボル空間として、また、さまざまなノウハウ（ex.本当に利用しやすい都市は、どのようなハードとソフトを備えたものであるかなど）を蓄積する場として先行的に整備することが重要である。
これには、施設の構造や交通手段の改善にとどまらず、もっぱら用地取得の制約で遠隔化が進んでいる病院、福祉施設、図書館などの公共施設を、中心市街地などのもっとも利用しやすいエリアに再配置するための整備手法の工夫まで含めて検討することが必要である。

　
ｂ．都市グレード向上に向けた地域アイデンティティの形成


　中心市街地活性化策は、どの都市の駅前も似たり寄ったりで、横並び的・没個性的・金太郎飴的と批判されることの多いわが国の従来のまちづくりのあり方を脱皮し、真にオリジナリティがあり、魅力的なまちづくりとは何か、という問いに答える機会である。換言すれば、「ミニ銀座」や「ミニ新宿」ではない中心市街地づくりとは何かということであり、これに対する、地域の事業者、地域住民、行政の総合的な構想力、センス、プロデュース力が試されているといえる。
都市グレードの向上は、ａ．公共事業に依存する割合が高く、ｂ．建設業の産業シェアが高い、ｃ．土地の取得や土地価格の制約が相対的に緩やか、といった条件を持つ地方都市にとって、まさに公的都市整備事業の内容の再検討と、民間事業者と協力・連携したまちづくり策のあり方を模索する試金石となるものである。
　なぜなら、地域市民の実際の必要性と利用率の低い目玉的な大規模施設などではなく、本当に地域住民の住環境の質や利便性の向上にどのような都市環境の整備が必要なのかについて、今後の規範となる回答を示さなければならないからである。これらは、地域のおかれた諸条件により異なり、したがって、本来、“金太郎飴”にはならないはずである。
自然環境、歴史性、住民気質、地域風土などを背景としたともすれば抽象的・静的な概念である地域アイデンティティを、都市の現実の中に見いだし、目に見える形に展開していく動的なプロセスこそ、都市整備のリデザイン力であり、その諸要素・ディテールの把握力といえる。

　
ｃ．「持続可能な都市づくり」への挑戦


　中心市街地活性化は、また、資源やエネルギーの効率的利用と循環型社会の構築という２１世紀型の都市や地域づくりの方向性を示すものでなければならない。中心市街地の既存ストックの陳腐化を防ぎ、適切なリニューアルや施設整備を行うことは、社会資本の効率的な整備・充実に効果的であると考えられるが、これが、同時に、循環型社会の構築につながるものであることを、行政はトータルなビジョンとして描くことが求められている。
　ともすれば、こうしたテーマは、スローガンやモットーに終わりがちであることを考慮し、中心市街地活性化において実施する施策が、どのような形で、またどの程度、循環型社会を築きつつ、雇用や生活の向上を達成していくのかについて、事業者や住民の理解を得る定量的な指標（ＣＯ_２削減率、大気汚染改善度、雇用創出、公共施設等へのアクセス時間短縮、廃棄物減量効果、およびこれらの費用効果など）を検討・明示すべきである。

　

（２）	中心市街地を広範な都市型産業の苗床に

経済構造改革プログラムでは、日本経済を支える成長可能性の高い15分野が示されているが、これらの多くは、都市などで活発に受発信される情報や創造的人材を発展のバネとするものである。その意味で、いわゆる『都市型産業』の成長が、今後のわが国産業の帰趨を握るといっても過言ではない。
したがって、中心市街地が商業地としてだけでなく、広範囲な都市型産業の苗床機能を発揮できる場として環境条件の整備を進めることが重要である。従来、行政はどちからといえば、工場などの産業関連施設を商業地や住宅地などから郊外に移転させる方向にあったが、今後は、生活と調和する産業のモデルとして、生産やサービス提供の各工程における環境汚染防止、廃棄物の適正処理、騒音・交通渋滞などに対する徹底した対策と、地域環境や住民生活へのきめ細かい配慮を前提とした操業・立地については、積極的な意義を見いだすことも必要である。また、商店街や住民サイドに対しては、行政などが中心となり、これら産業の立地に関する理解を深める努力を払うことが必要である。
　
ａ．ニューファクトリーなど開放型工場の立地


中心市街地においても、サービス業だけでなく、ニューファクトリーなどの開放型工場であれば、近隣環境と調和した操業が可能であり、製造業の立地可能性を拡大させるものとなる。また、ファッション産業、福祉産業など、よりエンドユーザと近い生活関連型産業では製造−販売一体型工房など新たな業態の展開が可能である。
　さらにより広いエリアにおいては、エコ・インダストリアル・パークなどの循環型産業施設（複数種類の工場群が相互に資源・廃棄物のリサイクルユースを行い、外部にほとんど環境負荷を与えないタイプの工場団地。海外などに一部事例。わが国では実証プラント段階）の立地も検討に値しよう。
　中心市街地に活力を与えるこれら産業の立地を進めるため、「工場三法」に上乗せ的に規制が行われている都市計画条例等のあり方についても、現実の状況に照らし合わせ必要な再検討を行うべきであろう。

　
ｂ．起業家に情報と場を提供


起業段階では資金的制約などのため、ビジネスポテンシャルが高い場所への立地は通常困難である。一方、中心市街地には空き地や空き店舗が存在している。また、売上の減少などから廃業意向を有している商店主も多い。現状ではこうした適地は空店舗であったり、開店休業状態であったり、駐車場などに転用されるケースが大半である。さらに、こうした情報は、口コミなどを通じて狭い範囲にしか流通していないのが、実情である。
　そこで、インターネットなどのメディアも活用し、これらの地域情報を迅速・的確に幅広く流通させるルートや、土地交換などを促進する仲介システムづくりを検討する。これにより、地方都市の中心市街地における新規参入・新陳代謝を促し、活発な都市型ビジネスの展開の場としてよみがえらせる方向を探るべきである。

　

（３）	活力ある事業主体の確立

　中心市街地活性化においては、地域の事業者や住民、行政などの連携や協力体制がきわめて重要であり、その中核的な組織とされる「タウンマネージメント機関（ＴＭＯ）」への期待が高い。他の諸国の例を見ても、ＴＣＭ（タウンセンターマネージメント、英国）、ＣＲＭ（セントライズドリテールマネージメント、米国）などの担う機能はきわめて大きく、ＴＭＯが主体的な力を発揮できるかどうかに事業の正否が大きく依存している。ＴＭＯは第三セクター方式がとられるケースが多いと予想されるが、これまでの地域開発関連の少なくない数の第三セクター方式事業が、組織・経営・人材などの面で多くの問題（＝おざなり的運営による事業の失敗）を抱えているという反省を踏まえることが必要である。また、既存の商店街、商工会、商業会議所組織の枠組みや活動が、一部に形骸化のそしりを免れない点もあることを考慮し（東京の例では、現在商店街活動に参加していない、あるいは、商店街活動がないという割合が４割に達している、図表−８）、メンバー構成などにおいても現在の民意を代表するより活動的な層の参画が不可欠であろう。

ＴＭＯは、地域の行政と民間がパートナーシップを形成し、意欲とアイデアを結集し、議論し、創造的に計画立案し、現実的な成果を目指す都市経営を行う機関である。ビジョンと情熱はもとより、利害対立や参加意識の薄さなどを克服し、コンセンサスを形成していく実際的な力が強く求められる。
また、手法面では、現状の正確な把握と、何より客観的・数量的に規定された目標の設定が必要である。これなくしては、事業の達成度やその効果についての評価が困難となり、また、責任の所在も不明確となるからである。中心市街地活性化は公的な共同事業であり、当事者は、内外に対して説明責任（アカウンタビリティ）を有していることを銘記しなければならない。これらは、“しばり”というよりは、むしろ、透明で効率的な運営のための必須の要件であるとともに、当該中心市街地の取り組みの先進性を示す差別化ポイントであり、さらに市民の理解を得るポジティブな手段であると解すべきである。
　

ａ．ＴＭＯの構成や運営上の要件

・創造的、かつ民間企業の経営センスやリーダーシップを発揮できること人材の参画
・いわば供給側である商店街関係者や事業者だけでなく、需要者側・住民側の参画
・斬新なアイデアと行動力、柔軟性に富む若手経営者、主婦、高齢者など各層の活動的な層の参画
・客観的でフレッシュな視点を提供できる外部専門家や、利害にとらわれない事業評価ができる第三者機関との協力
　
ｂ．事業目標の明確化と成果・効果の把握

・当該地域における中心市街地活性化事業の定性的な目標とともに、達成を期する雇用創出量、商業床面積、売上高や、住宅供給数、民間投資誘発額、都市環境改善度などの数値化目標を設　定・公表する。
・事業達成の手法や中間段階における達成度評価手法を予め明示化する。
・必要とされる投資額と費用効果試算を公表する。

　

（４）	事業者自身の生産性向上努力

限られた購買ニーズを充足する上で、現在および近い将来の商業セクターは供給過剰といえる状態にあり、中心市街地・郊外新商業集積地間、あるいは都市間において、競争の激化を通じた商業地の整理・再編成は不可避である。こうしたマクロ状況の中で、生き残りへの基本条件は、何より事業者や地域自身の再活性化に向けた生産性向上努力にかかっていることは論を待たない。

しかしながら、既存事業者は、もっとも地域住民に近く立地し（また、自身が地域住民である場合も多い）、多年にわたり住民の購買行動に接してきたという優位なポジションにあるにもかかわらず、地域消費者の購買ニーズの変化を見逃し、支持を失いつつある事実を重大に受け止める必要があろう。　実際、地域消費者は、既存商店街の価格、品揃え、品質、営業方法等について満足しているとは言い難く、その将来についても厳しい見方をしている。一方、高齢社会の到来を目前にし、徒歩・自転車あるいは公共交通機関を利用した身近な範囲における必需品・買い回り品購買機能や、コミュニケーション機能の維持への強い要望を持っていることも事実である。

既存事業者は、再び消費者の支持をつかみ文字通り『商業中心』の地位を回復することができるか否かの正念場、おそらくはラストチャンスに直面していることを強く自覚すべきである。


ａ．住民の安全・安心な地域生活や、女性の社会進出支援、新しいライフスタイル支援、介護支援などをふくめた社会的ニーズを組み込んだ地域商店ならではの地域に密着した新規サービスを、個別あるいは共同で積極的に開発する。
　
ｂ．一般企業等で導入されている経営手法や情報化戦略の導入などを通じて、高コスト体質を改善し、事業体として商店のあり方を見直す。
　
ｃ．さまざまな新規参入層に対して、どちらかといえば排外的・閉鎖的な体質を改め、むしろ、競争的共存を図る方向を模索するなど経営の発想の転換を行う。